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物が落ちる音

まずは、初めて聞くこの作者について。
1973年、コロンビアの首都ボゴタに生まれる。ロサリオ大学で法学を学び、その後フランスに留学、パリ大学でラテンアメリカ文学を専攻して博士号を取得した。2004年に『密告者』、2007年に『コスタグアナ秘史』を刊行。3作目になる『物が落ちる音』(2011)でアルファグアラ賞を受賞、同書の英訳によって2014年に国際IMPACダブリン文学賞も受賞し、国際的な評価が高まっている
若いコロンビア作家。世間もそうだが、私でさえ、あの怒涛のようなラテン文学ブームの後、ラテンアメリカの若手作家たちは、一種受難の時期にいるのだろうと想像する(勝手な思い込みか?) そして、ラテンアメリカをひとくくりにしてしまう乱暴さも勝手なものかもしれない。チリにはチリの、アルゼンチンにはアルゼンチンの、そしてコロンビアにはコロンビアの事情もアイデンティティーもあるのだろうが、地球の反対側で、幸運にも邦訳された書物のみを相手にしている私には、まだまだその辺はひとくくりだ。確かにラテン文学と称される一覧を見ると、大御所揃いで大作揃い。現代作家も何冊か読んでいるが、比較をすれば彼らはかなりスマートだ。泥臭さも破天荒さもさほどなく、ヨーロッパやアメリカの現代作家とあまり色が変わらないような印象だ。
487984344X物が落ちる音 (創造するラテンアメリカ)
フアン・ガブリエル・バスケス 柳原 孝敦
松籟社 2016-01-26

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コロンビアの首都ボゴタに住む主人公の語り手ヤンマラは、偶然ビリヤード場で知り合った年長の謎の男リカルド・ラベルデと知り合いになる。彼が狙撃され殺害され、そこに居合わせたヤンマラも瀕死の重傷を負うが命はとりとめる。これが1990年代半ばの出来事。結婚をして子供が生まれる直前に起こったこの事件をきっかけに、主人公の葛藤が始まる。妻との間もギクシャクし、ある日リカルド・ラベルデが住んでいた部屋に向かう。彼の友人ならこのテープを聞け、と渡されたテープは、生前リカルドが涙を流しながら聞いていたテープだった。その後、殺されたリカルド・ラベルデの娘でマヤと名乗る女性からの電話で、ボゴタから遠く離れた地に住む彼女を訪ね、そこから物語はその両親(つまり、リカルドとその妻)の話が当時のコロンビア社会を背景にして語られる。

生前のリカルドが最後に聴いたテープは、彼のアメリカ人の妻エレーンが、アメリカからコロンビアへ向かう途中で墜落した飛行機のブラックボックスだった。エレーンはアメリカの平和部隊の一員としてコロンビアへやってきて、リカルドと知り合い、結婚して娘を授かる。リカルドはパイロットで、セスナ機で麻薬を運ぶ仕事を始める。マリファナとはけた違いに大きいコカインの運搬を引き受け、そして彼は逮捕されアメリカで約20年もの間投獄された。娘のマヤには父は死んだと伝えていたエレーンも、リカルド亡き後のコロンビアの麻薬と暴力の時代に耐えられず、大学生になったマヤをコロンビアに残し、マイアミに戻った。母を飛行機事故で失い、死んだと聞かされた父が生きており、でもその父も殺され、マヤは一人ぼっちになった。

あとがきの解説やネットで、1980年代のコロンビアと麻薬の歴史、巨大メデジン・カルテルの親玉パブロ・エスコバルをざっと調べてみた。書物だけでなく映像の世界でもこのコロンビア麻薬シンジケートは恰好のネタらしく、情報は多いし素材としても魅力的なのだろう。麻薬戦争の最中に青春時代を過ごしたバスケスだが、読み終えてみるとそんな社会的問題よりも、登場する人たちがみな過去を思い出し振り返り続けながらいることに気づく。それはかなりの後悔を伴った痛々しい回想だ。

フアン・ガブリエル・バスケスは若さに任せて、精力的に作品を出している。『物が堕ちる音』は2011年の作品だが、邦訳は「コスタグアナ秘史」の2007年があり、その前の2004年刊『密告者』は準備中の模様。ここ2-3年でさらに2冊はあるらしい。バスケスは久しぶりに出会ったストーリーテラーだというのが第一印象。正直なところ、最後の30ページがコケた印象があるんだが(セックスシーンもない方がよかったし、何よりもどうも最後はベタベタとウェット過ぎやしないか?)、それでもなかなかのストーリーテラーだと思う。もう何冊か読んでみたいと思わせる作家が一人増えた。
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