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童貞王

2015年9月刊行の真新しい本。ハードケースに入っていて、無駄に(笑)カッコイイ!さすがに国書刊行会だ。
バイエルンの「狂王」として名高いルートヴィヒ2世と、音楽界の巨匠リヒャルト・ワーグナー、実在のこの二人をモデルにした長編小説、本邦初訳。俗世間から隔絶した人工楽園に住む美貌の王フリードリヒ2世と、魔的な天才作曲家ハンス・ハンマー ─19世紀末を舞台にした、〈耽美主義者と魔術師〉の聖なる物語。

4336059454童貞王
カチュール・マンデス 中島廣子
国書刊行会 2015-09-28

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狂王ルートヴィヒ2世の居城だったドイツ南部のバイエルン州フュッセンにあるノイシュヴァンシュタイン城には一度行ったことがある。城が一番美しく見えるのは空中撮影した時ではないかと思う。行ってしまえば城なのだが、やはりこの城は、逸話てんこ盛りのルートヴィヒ2世の居城だから人気なのであって、城そのものより、死因も含めた謎多き美しき王様の生涯の方が、断然興味がある。一方、ワーグナーと云われると、ルートヴィヒ2世が心酔した作曲家というより、フランシス・フォード・コッポラ監督による映画『地獄の黙示録』の「ヴァルキューレの騎行」を思い出してしまう私だが、なんにせよ荘厳というか派手というか、劇的なワーグナーは日本人には馴染みにくいかも知れん。でも間違いなくドイツでは人気があるだろうし、当時一世を風靡した大作曲家。

ハードカバー入りの国書刊行会の本だと云うのに、読み終わってみたら意外にもエンタテイメント要素が満載の本だった。カチュール・マンデス(1841生-1909没)の名は初めて聞いたけれど、才能豊かでちょっと人騒がせ、なかなかのベストセラー作家であったらしい。この本がウケたのも、名前は変えているものの、明らかにルートヴィヒ2世やワーグナー、オーストリア皇后エリーザベト、その妹ゾフィー・シャルロッテ、等々、当時の有名人と明らかにわかる設定で、俗人受けしそうなスキャンダラス要素も盛り込みながら、なかなか楽しいエンタテイメントに仕上げたところにあるのかと思う。しかも、出版された1880年はまだルートヴィヒ2世は生きていたのだから、その不可解な死を予言したとなっては、相当にスキャンダラスな本だったはずだ。

実際にはワーグナーの出番とルートヴィヒ2世との絡みは少なく、代わって大きく登場するのは、元娼婦の歌姫グロリアーナ。彼女はルートヴィヒ2世に出会ってからは、彼だけを絶対崇拝するのだが、それ以前は肉感的で卑猥ででもたくましい歌姫。その彼女を見出しマネージャー然と取り仕切り、辣腕を振るう醜男もまたなかなかのキャラクター。この二人が登場する前半は、その後のルートヴィヒ2世篇のまったりとした流れより、エキサイティングで面白い。

王の存命中に出版されたこの本では、ルートヴィヒ2世はキリスト受難劇の芝居に登場し、本当に絶命してしまうというとんでもないラストが用意されていた。まったり感から目が醒めるようなラスト。至極満足なエンディング。

調べてみると、バイエルン王国はルートヴィヒ2世ばかりが目立つが、彼のお父さん・お祖父さん・弟と皆、どうにも浮世離れしているとか、愛人にうつつを抜かして暴君と化すとか、病弱で内向的とか、精神を病んでしまった退位させられたりとか、とにかく波乱万丈な一族であるということがわかった。第一次大戦でバイエルン王国は消滅するが、既に時代は近代にさしかかっていた19世紀後半に、中世の絶対王政さながらのような、趣味に走り、政治は顧みないルートヴィヒ2世はどこまでいっても魅力的なのである。
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