Entries

競売ナンバー49の叫び

謎の作家ピンチョンの本は家に何冊かあるが、いまだに手を出したことがなかった。否、正確にいうと、この「競売ナンバー49の叫び」は、最初の数10ページ読んでは放り投げるということを2-3度やった。名高き難解王ピンチョンの作品の中でも、この「競売ナンバー49の叫び」は初心者向けらしい。実際に、所謂小難しいことばっかり書いている頭よさそうな人が読む本ではなく、平易な書き方なのに、気づくと迷子になるタイプの難解本だった。

4480426965競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)
トマス・ピンチョン 志村 正雄
筑摩書房 2010-04-07

by G-Tools

ということで、なんだったのかと云われてると、何だったのだろう?
謎の巨匠」の「探偵小説」仕立ての、暗喩に満ちた迷宮世界。ある夏の日の午後、主人公エディパは、大富豪ピアス・インヴェラリティの遺言管理執行人に指名されたことを知る。偽造切手とは?郵便ラッパとは?立ち現われる反体制的なコミュニケーションの方法とその歴史。短編「殺すも生かすもウィーンでは」を併録。暗喩読解のための解注も増補した。
とまあ、粗筋を読めばそれまでだが、粗筋こそどうでもいいのがこの本。巻末の膨大な解注を先読め!とのご指摘もウェブでは見たが、それもなんだかなあ、なので、解注はすべてすっ飛ばしてみた。そして最後に解注だけ読んでみたが、最初に読もうが、最後に読もうが、そんなに変わらない。少しでもわかりたければ、もう一度読め!だね。平易なくせに、よーーく読むと、展開が平易じゃないのよ。しかも交錯している、エピソードにエピソードを絡める。「競売ナンバー49の叫び」は一種の謎解き作品だが、結局謎も解かれない。膨大な解注が示すように、暗示的には色々と想定されることはあるが、情報が次々とでてくるくせに、それらを最後に、あーーーなるほど、とアメリカらしくオチを作ってくれない。

初ピンチョンなので、何がどう「覆面作家」なのかということに興味を移してみた。この難解さ、ペダンティックさは到底アメリカらしくないのだが、れっきとしたアメリカ人で、ピンチョン家はアメリカ最古の家柄だそう。父はプロテスタント、母はカトリックで、どうもカトリックとして育てられたらしい。高校時代から相当に頭はよかったようで、コーネル大学から奨学金を得て、同年秋に工学部応用物理工学科に入学、海軍に2年所属したのち、コーネル大学に戻り英文科に入学した。ここでの創作科の講師がウラジミール・ナボコフだった。ここも優秀な成績で卒業し、シアトルのボーイング航空機会社に就職して米軍の地対空ミサイルボマークのテクニカルライターとして働いている。20代後半から執筆活動をするが、この時点から既に公の場には姿を見せず、文学賞の授賞式に姿を見せなかったり、受賞そのものを拒否したり、と完全に覆面になっている。この覆面行動の真相はわからないが、出たがり目立つが勝ちのアメリカにおいては変人の部類に入るだろう。が、本当のところ変人なのかどうかは、わからない。噂というものは増幅するものだからね。

さてもうひとつ。ピンチョンといえば、”エントロピー”なのだそう。その”エントロピー”って何なのよ。
1.熱力学において、物体や熱の混合度合いのこと。
2.情報学において、「情報量」のこと。
熱力学という学問はエンジンの登場とともに発展したものらしく、そこでボーイング社地対空ミサイルボマークのテクニカルライターと結びつけてみたのだが、そんなもんでいいのか?エントロピーが情報学や、統計学に応用されるようになると、要はそれが「どれくらい乱雑か」の指標なのであるという。より大量の情報がより混沌と混ざりあった状態が、エントロピーが高い状態なのだと。なるほど、そういわれると、ピンチョンはエントロピーがやたら高い。

作品の感想はほとんどないに等しいが、とにかくピンチョンバージンからは脱出できた。
関連記事
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://besideabook.blog65.fc2.com/tb.php/687-13de4f72

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

Green

Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

Calendar

<
>
- - - - - - -
- - - 1 2 34
5 6 7 8 9 1011
12 13 14 15 16 1718
19 20 21 22 23 2425
26 27 28 29 30 - -

全記事

フリーエリア

フリーエリア