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奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島

さて、半月近くもブログの更新を怠り、3冊の本を溜め込んで、夏休みに突入した。最初の2冊がどうのということではないが、3冊目のこれ、1年に一度遭遇できるかどうかというくらい衝撃を受けてしまった。

4309207014奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島
ユーディット・シャランスキー 鈴木仁子
河出書房新社 2016-02-26

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作者のユーディット・シャランスキー は旧東ドイツ生まれ。彼女は1980年生まれなので、東西の壁がまだ存在していた頃に少女時代を送っている。
地図だけが世界を知る術だった
旧東ドイツ出身の作家はみずからの手で美しい地図と文章を作り上げた。

これは世にあまり知られていない島の紹介でもましてや、絶景の孤島への案内文でもない。もっと孤独で悲しく、時には陰惨な歴史や信じ難いほどの人類の歴史を語る。後味が悪い本では全くないのだが、読み終わったとき、打ちのめされるくらいのショックが残る。

観光案内でない証拠に、50の孤島はほぼ初めて聞く名前の島だった。そして孤島の名にふさわしくそれは、何故地図に載っているのか不思議になるほどの、小さな小さな孤島ばかりだ。各島は下記のように紹介されている。
奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島
表紙を同様、白とブルーの2色で統一されたページの右側には文章が、左側には全島の地図、そして左上の隅には、その島を中心に据えた世界地図(の一部だが)がある。無人島が多数あるこの本で紹介される島は、その地図を真ん中に据えた世界地図から眺めると、地図帳の中で見る世界は全く違うものになるということに驚いた。日本でお目にかかれる地図は、およそ日本の位置が中心となった地図を眺めることになる。北半球、太平洋とユーラシア大陸に挟まれた島国が日本だが、広大な南太平洋を真ん中に据えると、そこにはほぼ海しかない。当たり前のことだが、世界は広くて地球は丸く、それを2次元の地図の世界に表現しようと思うと、そこには歪みが生じる。彼女ほどの地図マニアではないものの、私は地理の時間は地図帳をずっと眺めている生徒だった。大人になってから買ってしまった地図帳を今改めて眺めてみて驚いたのは、世界地図といいながら、それは大陸の地図だということだ。いや、地図帳をそう作ることは至極当然のことだが、そこには人の住む大陸と呼ばれるもの以外の存在はないに等しい。大陸が大きな島であれば、この本の孤島はただ小さい島であるだけだが、地球儀を穴のあくほど隅々まだ眺めると、名前の記載もない点が無数に存在し、東西冷戦下に少女時代を過ごし、東ドイツという孤島でユーディット・シャランスキーは別の孤島の存在を東ドイツと同じ目線で眺めたのかもしれない。

何を地図に表すか、どう表すか?
地図は具体的であるとともに、抽象的なものだ。そしてどれほど正確で客観的であろうとも、けっして現実をありのままに写したものではない。地図は、敢然たるひとつの解釈なのである。

島にまつわるエピソードは、奇習、奇病、暴力、殺人、自然破壊等々・・・ 大航海時代から探検家たちが海へ繰り出し、新たな土地を発見してきたが、栄光の歴史は語られても、不毛の歴史は消えていく。命懸けの冒険の果てに上陸したその島は、不毛で無価値であるということはざらにあったのだろう。それでも人は隔絶された孤島にロマンを感じ、隔絶されているが故に、この本にあるような奇妙な出来事が起きる。”孤島はそのありようからして牢獄なのだ。”との前書きもあるが、そこではユートピアが実現するよりは、個々の人間による恐怖政治を招くケースの方がはるかに多く、”人間の意識において、島は、征服されることをおとなしく待つばかりの自然の植民地である。”
島は楽園かもしれない。地獄でもあるが。

島をめぐる物語であるこの本が、地図帳でもなく自然科学でもなく、ドキュメンタリーでもない理由は、島という舞台の物語が人の心を投影した場所であるからだとユーディット・シャランスキーは云っている。そこで起きた奇妙な出来事は、
島がつねに現実の地理的座標を超えて、人心を投影する場所であるというそのことからしても、(真偽は)確認できないのだ。心を投影した場所は、学術的手法ではなく、文学的な手段によってしか捉えることができない。

本屋のどこにこの本を置くべきか悩ましいところではあるが、敢えて「海外文学」の棚ではなく、地図帳の隣にそっと置いておきたくなる。自然科学やアカデミックな分野に関わる人間が、それと表裏一体となっている人間の性を忘れることがないようにとの戒めになるように。。。
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