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ヌメロ・ゼロ

今年2月に亡くなったイタリアの知の巨匠、ウンベルト・エーコ。
『薔薇の名前』は昔読んだな。「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」 「前日島」 も読んだっけ。「フーコーの振り子」や「バウドリーノ」は飛ばしている。最近出版された「プラハの墓地」はちょっとそそられるが、新しい故、眺めているところ。そしてエーコ氏にしては珍しく短い小説がこちらだが、これが遺作なのかな?とっつきやすそうなので、こっちから行くことにした。そもそも彼は小説家ではなく、哲学者だと私は思っているので、そちらの分野についての方が圧倒的に書物は多いが、私には太刀打ちできないと思われ、手を出す気もない。

4309207030ヌメロ・ゼロ
ウンベルト・エーコ 中山エツコ
河出書房新社 2016-09-21

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「握りつぶされた真実を告発すること」を目的とした新聞の創刊を目指し、パイロット版として「ヌメロ・ゼロ(ゼロ号)」の編集に取り組む記者たち。しかしその新聞発行の裏には、出資者の利益を図る企みが潜んでいた。そして編集会議で日々繰り広げられるのは情報操作のテクニック。そこに見られるのはまさしく、歪んだジャーナリズムのお手本のような実態だった。一方で、未解決のテロ事件、ローマ法王の死をめぐる疑惑、ムッソリーニをめぐる陰謀説など、歴史の闇に葬られ忘れ去られた事件にふたたび光をあてようと調査を進める一人の記者。彼の命が狙われることで事態は意外な展開に―知の巨人、最後の傑作!

エーコは中世が舞台の話ばかりだと勝手に決めていたが、時は現代。一癖もふた癖もあるようなジャーナリストを集め、新聞の創刊号のパイロット版に取り組む面々。おそらくどんな国でも、どんな出版社でも多かれ少なかれ行われる情報操作。そこは”ウソはつかない” が、人間の心理を巧みに利用し(研究しか・・・)誘導していくジャーナリズムのテクニックと怖さを、現場の中から描き出す。ムッソリーニの陰謀を追っている一人の記者が殺害されたことで、一気にサスペンスモードに入る。

そのムッソリーニの陰謀だが、云われてみればありがちな話ではあるのだが、戦争終了間際に死んだはずのムッソリーニは替え玉の影武者で、本物は密かに匿われており、南米へ逃避行したというもの(ヒットラーにもそんな話があったような?)。その逃避行の手助けに一役かったのが、バチカンだったというも、あるある的な話ながら、ついついのめりこんで読んでしまう。そしてその関りは、CIAから大国の首脳から、フリーメイソンから・・・と豪華絢爛。

そもそもパイロット版なるヌメロ・ゼロ号ははなから創刊されることはないと決まっていた。がそれを知るのは一握りの人間のみ。陰謀と歪んだ情報にまみれた現代の情報社会への皮肉満載。そして皮肉は結局私たち現代人への警鐘へと展開する。それはまさに帯の言葉;
私たちはすぐ忘れる。そして無関心になる。悪しきジャーナリズムが狙うのはそこだ!
なんだなあ。人は簡単に記憶を失う。今日の事件も明日になれば人々の記憶から抜け落ち、そしてそれはもう誰の関心も引かない。次から次へと煽るように衝撃的な事件が起き、そしてその衝撃的事件はともすれば、ジャーナリズムにより過剰に宣伝され、矢継ぎ早に情報を送り込まれた我々はすっかり自分の脳みそで思考することをさぼってしまう。エーコはこう云ったそうだ。
私たちの存在は私たち自身の記憶にほかならない。記憶こそが私たちの魂。記憶を失えば私たちは魂を失う。

重厚で壮大な物語を紡ぎ続けたエーコの晩年のこの作品は、とても軽快だ。体力的にももう以前と同じように活動することは難しかったのかも知れない。でもエーコはここでも彼のやり方で人間の英知を再度揺さぶろうとしているように見える。
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