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ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト

どのような経緯でこの本を買ったのか思い出せない。どのローマ皇帝ものであろうと、ローマ皇帝ものは、ある種格調高く、難解と相場が決まっている。多田智満子さん訳とはいえ、その多田さんでさえ、(平たく云えば)音をあげたくなったくらい、原文は難解らしい。詩ならよい、哲学でもよい、でも哲学詩になると、それはもう・・・ってなことをおっしゃっている。そもそもこの作品はいわゆる評論とはいえないし、伝記小説のジャンルからもはみ出る。

4560070806ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト (白水Uブックス)
アントナン・アルトー 多田 智満子
白水社 1989-06

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巻末には、多田智満子さんによる「シリアの公女たち」と 巖谷國士氏による解説がつく。まずはこの「シリアの公女たち」を読み、Wikiに飛んでローマ帝国第23代皇帝ヘリオガバルスをさらっと読まずして、いきなり本文は辛い。後世の歴史家が描くヘリオガバルスは誇張もさぞかし多いのだろうが、「最悪の暴君」の名誉を受けてしまったこの少年皇帝の逸話は、あまりにもすごくて列強しきれない。実在はしていなかったと云われた方が納得できるくらいだ。

なのに、どうも楽しんで読めたので不思議だ。多田 智満子さん、さすがである。 「シリアの公女たち」とWikiの事前情報により、皇帝になった経緯、母と祖母によるいわゆる傀儡政権とう性格、暴虐と性的倒錯のあれやこれやは、およそわかる。ただ、宗教と神とアナーキズムを得々と語られると、ギブアップだ。14歳で即位した変態で不道徳なこの美少年は、ローマ衰退期の狂人皇帝の中でもカルト的に人気が(?)あるらしい。18歳で殺害されたのは厠の中だったというから、ピンからキリまでのグロテスクさだ。ネロだってカリギュラだって少しくらい業績はありそうなものだが、ヘリオガバルスってきっと何もなかったんだろうなあ。

ローマ帝国はあらゆる宗教を認めた古代の他民族国家で、こんなとんでもない皇帝を抱えながらも長きに渡って帝国を維持できたのは、超巨大な官僚機構のためだと云われる。みずからが唯一神となろうとしたヘリオガバルスは、変態度合ははさておき、官僚機構にとっては、危険なアナーキストだった。官僚にとって宗教的統治などとんでもない話しだ。アントナン・アルトーがヘリオガバルスのどこに魅入られたのかは、私にはわからないが、狂気に陥り精神病院で最期を迎えたアントナン・アルトーには、この皇帝の傍若無人さのどこかが輝いていたのかもしれない。伝記でも哲学でも詩でもないこの本には、アントナン・アルトーが発する微熱のような熱だけが終始一貫して続いている気がする。
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