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亡命ロシア料理

何でも、1996年に出た本がインターネットで話題になり、新装版として再刊されたらしい。著者はふたりとも70年代にアメリカに移住し、亡命ロシア人向けの新聞や雑誌の編集に携わっている。迫害を受けての亡命ではなく、あくまで移住らしい。1970年代にデタント(緊張緩和)を受けて国外に出たロシア人(その頃はまだソ連)は、”第三の波”と呼ばれるほど沢山いたらしい。Twitterで煽られ、とうとう根負けして買ってしまったこの本。表紙は立派に料理本で、レシピも掲載されているが、あくまでエッセイ。煽られているだけのことはあり、私が読む本の中では、ググるとやたらヒットする。重厚で暑くて厚いイメージが先行するロシア文学はとっつきにくいが、この本の評判はとてもいいようだ。

4896424581亡命ロシア料理
ピョートル ワイリ アレクサンドル ゲニス 沼野 充義
未知谷 2014-11

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確かに、この辛口文明批判は、自虐も他虐もあり、軽やかで嫌みも毒舌も小気味よい。ウオッカを飲みながら、勢いに任せて書いたのか、計算されたボケなのかは不明だが、1ページに一つは思わずメモっておきたくなるような”蓋し名言”もあり、中身はこってり。名言の引用は、一杯あって面倒だったので、版元未知谷から目次をもらってきた(こっちの方が結局長いが・・・)。このタイトル、翻訳ではあってもその酔っ払い具合はよくわかる。

1 壺こそ伝統の守り手
2 お茶はウォッカじゃない、たくさんは飲めない
3 シチーの香り
4 卵も殻だけでは三文の値打ちもない
5 帰れ、鶏肉へ!
6 それ、ソリャンカだ!
7 魚の呼び声
8 100%人生ジュース
9 流行らない美徳
10 ハルチョーをちょーだい!
11 シャルロートカはロシアの名前
12 反ユダヤの百合
13 カメレオンの昼食
14 失われた食欲を求めて
15 われらの水中生活
16 キノコの形而上学
17 ボトヴィニヤ攻防戦
18 自分の羊のところに帰ろう
19 クルコヴィの木で絞首刑!
20 ウハーはスープではなく満足への近道
21 母国語のように愛しいタン
22 ユダヤのペニシリン
23 サラダとサーロ
24 メンチカツの名誉回復
25 香りの冒険
26 肉なしスープで狼は満腹、羊は無事
27 なまけ者のためのペリメニ
完璧レシピ四皿分
28 缶入りの貴族たち
29 漬け汁の中のふるさと
30 女性解放ボルシチ
31 皮つきの従兄弟
32 ピレネーの宴
33 癖も臭みもある異国情緒
34 仔牛肉のように優しく愛して
35 蒸されることの喜び
36 マグロは海の鶏ではない
37 毎日がお祭り
38 本物の偽ウサギ
39 酒をめぐる醒めた話
40 最初にして最後の料理
41 スメタナを勧めたな!
42 アメリカとロシア、その最大の違いは?
43 東は東、西は西、されどこの両者亡命ロシア人の食卓で出会う
44 食いしん坊に乾杯!

移住先のアメリカの貧相なジャンク食文化をこき下ろしたり、母国ロシアの体制を皮肉ったり、時にはフランスやドイツをもチクリと刺したりしているが、最初は辛辣な文明批判に聞こえた声が、徐々に前向きで質素でも豊かな日常を目指そうと呼びかけられているような気持になってきた。
バレエ、文学など高尚な芸術のどれを取っても、料理ほど、空想や変形の自由がきくものはない。それに、料理という芸術ほど人を自己表現に誘う芸術も他にはない。

亡命者/移住者は、祖国をある意味捨てるわけだが、自ら出て行った祖国であっても心底から祖国を捨てられるものではないのだろうな。捨てたもの、新たに獲得したもの、その双方のバランスは、どちらが多いとか少ないとかではなく、常にどちらも天秤の上に乗っかり続けて、右に左にゆらゆら傾いている。Wikiにこんな記事があった。
「ソビエト連邦の食事情」
この一見、爆笑の食道楽エッセイも、この記事を読むと、涙ぐんでしまいそうになる。どんなにグローバル化が進もうと、人を故郷に結びつけているのは胃だと本書は云う。そしてその胃が郷愁を感じる先は、家庭料理だ。祖国と云いながら、それは生まれた場所の生まれた家の料理だった。

料理人は、たとえ素人であっても、しっかりした倫理的基盤をもたない意気地なしになる権利はない。誰でも好きなように食べればいいじゃないか。などという道徳的相対主義は、料理の道とは相いれないものだ。

家庭料理とは古風且つ保守的でありながら決して異国風を疎んじるものではない。~押しなべて料理とは、自と他、理と善、新と旧といった弁証法的統合だ。その上料理に用いられる基本的な概念はもっぱら永久不変のものばかりだ。ほかのことはともかく人は食べることだけは毎日しなくてはいけないのだから・・・・

合理的で手軽なジャンクフードやインスタントフードの害は、単に生きるために食べるとか、健康に害があるということだけではない。食べることはアイデンティティーの問題で、大袈裟だけど人間の尊厳の問題で、料理に求められる”倫理的基盤”ってそういうことなのかなと思う。

私も料理は嫌いではないが、この本を読んでもでは、ロシア風スープを・・・と思い立たないことだけが、唯一の欠点。どう見ても、狭いキッチンでちまちま作る料理ではない(壺もないし・・・)。
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