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別荘

550ページあると、本の厚みは4cm程になる。通勤の持ち運びもさることながら、両手で持って読んでいると、重くて疲れる。年末年始は多忙につき、気持ちも新たにようやく落ち着いたところで、久しぶりに大作に手を伸ばした。ラテンアメリカ文学って、元気な時じゃないと読む気がおきないのよねえ。でも早く読まないと、『夜のみだらな鳥』が刊行されてしまう。

4773814187別荘 (ロス・クラシコス)
ホセ ドノソ Jos´e Donoso
現代企画室 2014-08-05

by G-Tools

そんなちょっとエネルギーが必要なラテンアメリカの中でも、ドノソはちゃんと読んでいる。マリオ・バルガス・リョサ曰く、『錯綜した神経症的世界と豊かな文学的想像力』は、どの本でも発揮されていて、でもドノソの本は決して難解ではなく、読みやすい。うーん、読みやすいというより、あまりに変で(笑)面白くてやめられなくなる。
「三つのブルジョワ物語」
「隣りの庭」
「境界なき土地」
「ロリア公爵夫人の失踪」

とある小国の経済を牛耳るベントゥーラ一族の人びとが毎夏を過ごす辺境の別荘。ある日、大人たちが全員ピクニックに出かけ、別荘には33人のいとこたちだけが取り残された。日常の秩序が失われた小世界で、子どもたちの企みと別荘をめぐる一族の暗い歴史が交錯し、やがて常軌を逸した出来事が巻きおこる…。チリの巨匠ホセ・ドノソの、『夜のみだらな鳥』と並ぶ代表作にして、二転、三転する狂気をはらんだ世界が読む者を眩惑する怪作、待望の邦訳!!1973年チリ・クーデタに触発されたドノソが、類い希なる想像力を駆使し、偏執的とさえいえる緻密な構成で書き上げた、理屈抜きに面白い傑作。後続する作家や世界の批評家たちを今なお魅了しつづける、ラテンアメリカ文学の金字塔。

ベントゥーラ一族一覧が本の最初にずらりと1ページ。他界した人もいるが、親が7組、計14人、子供らが35人の総勢49名。他に召使たち、原住民たち、と一大大河ドラマのような人数で、混乱することを覚悟するが、所謂そういう混乱はなかった。正確に云えば、誰が誰だかわからないことの混乱より、もっと混乱するものがある。きっと粗筋を読んだだけでは、何がそんなに凄いのかはわからないし、私がどれだけ描けるのかと云われても、きっと描けない。覚悟を決めてよんでもらうしかないかな。常軌を逸したという言葉には、かすかにまだ常識が残っている気がするが、そんなものは欠片もない。要は誰も彼もがイカレていて、時間軸も取っ払われ、数多の暗喩が散りばめられ、三人称で進んでいるかと思いきや、時折作者が顔を出し、読者に話しかける。無能な親たち、10歳にも満たない子供らの取澄ました狂気(ブリキの太鼓のオスカルみたいだ)、兄弟殺しや近親相姦、よくもこれだけと思うほどに盛られている。

「侯爵夫人は五時に出発した」という芝居遊びは何なのか?人食い人種は誰なのか?そして何よりもすべてを覆い尽くし、窒息させた怪植物グラミネアが意味するものは?ドノソがこの本を書き始めたのは、チリでピノチェットによる武力クーデターによってアジェンデ政権が倒された1週間後だという。世の人々は、その自由を奪われた政変に数々の暗喩を紐解く鍵を求めているのかもしれないが、私はただただ圧倒され、ただただ面白かった。

ベントゥーラ一族の別荘は、マルランダという場所にある。ベントゥーラ一族は夏の三か月間、この別荘で暮らす。多くの馬車を仕立て、家財道具一式を持ち運び、これまたおびただしい数の使用人を引き連れていく。この地は一族が所有する金の鉱山があり、ここから取れる金箔が一族の富の源になっている。鉱山で働くのは原住民たちだ。別荘の周辺には異常な繁殖能力を持つグラミネアという植物に覆われ、別荘とグラミネアの間には先に金箔を施した無数の槍が立てられ、これがグラミネアから別荘を守っている。否、これにより別荘はグラミネアの中で孤立しているといっていい。夏が終わるころ、このグラミネアが綿の穂をまき散らし始める前に、一族は再び都会へ帰っていくというのが、長いことの変わることのない習慣になっていた。だが大人たちがピクニックに出かけたそのたった一日の間に、屋敷は子供たちと原住民たちによりすべての似非の秩序が崩壊し、一日であるはずの時間軸が取り払われ、それは一年という時間になり、いやもう時間は伸びも縮むも野放図のものとなり、やがて別荘と一族はグラミネアの綿毛によって窒息し、崩壊する。

無能な親たち、狂っている子供ら、ベントゥーラ一族の過去と暗い歴史、これでもかと盛り込まれたこの本は重箱を突いても突いても、描くべきことは沢山あるが、読み終わった後に残ったのは、すべてを覆い尽くすグラミネアだった。本の中で作者ドノソが登場しては、これはフィクションだ、フィクションだとと繰り返す。そこまで執拗に言い聞かせないと、これはフィクションにならないのだろうか?悪夢と現実は同じ。狂気と美しさは同じ。爆発的に繁殖し、他の植物を絶滅させ、白い綿毛ですべてを埋もれさせるグラミネアがすべてだ。ベントゥーラ一族の金とグラミネアの銀の穂。眩しくて狂っていてクラクラする。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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