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満ちみてる生

未知谷のTwitterで煽る、煽る。あまりの攻撃に逆らえなくなり、とうとうポチってしまった。John Fanteは初だが、生粋のアメリカ生まれ、アメリカ育ちだが、イタリア移民の子供として生まれた彼の作品から、イタリアは切り離せない。石工の父、敬虔なカトリック信者の母。このモノクロの装丁と文学的タイトル(原題は、Full of Life)から小難しい本のような印象だったが、それはあっけなく覆された。

489642512X満ちみてる生
ジョン・ファンテ 栗原俊秀
未知谷 2016-10-28

by G-Tools

ハリウッドの脚本家だった30代の経験――白蟻に床を抜かれた家、頼った煉瓦積み工の父はイタリア移民第一世代らしくがさつで頑固。妻は出産前にカトリックへの改宗を望み、無信仰になっていた自分は幼い日の信仰へは戻れない……。父になる喜びと息子の立場を失う哀しみ、父母と妻、そして新しい命、それぞれの生を成熟したユーモアが包む生の讃歌。自ら脚色した映画も大成功した心温まる傑作。

直球に近い”心温まる”作品だ。直球過ぎてちょっと恥ずかしいくらいだ。映画化されたそうで(日本では未公開?)、なるほど読んでいると映像が浮かんでくるような作品だった。油断しているとちょっと泣けてくるような上手さもある。ただ、ちょっと苦手だ。それは、国の違いはあれど、世代の違い、親と子の確執というのは、誰にとっても成長する過程で多かれ少なかれ直面するもので、私にとっても当然経験があり、アメリカナイズされた生活を送る息子、頑固一徹のイタリア親父、そのどちらの気持ちもわかる歳になってしまった私には、どちらの気持ちも痛すぎる。痛すぎて自分の過去の罪悪感なども蘇り、心から温かい気持ちになり切れないのだな。彼の前作、『バンディーニ家よ、春を待て』と『塵に訊け!』と併せて、アルトゥーロ・バンディーニを主人公とする三部作らしいのだが、「満ちみてる生」では、主人公をあえて作家本人の名前、ジョン・ファンテを名乗らせしまった。フィクションではあるのだが、いくつものエピソードは、実際にジョン・ファンテに起きた事実を元に構成されている。三部作はつまり、彼の人生の三部作なわけだ。そしてそこに共通するテーマは、家族、信仰、イタリアである。

ロスに買った家のキッチンの床が白蟻に蝕まれ抜け落ちる。修繕には途轍もないお金がかかるため、不承不承、煉瓦積み工の父に助けを求め、実家に赴く。そこからロスまで父とともに列車で移動するのだが、これもまた珍道中だ。パンとワインとチーズとサラミを携え、粗末な食事を車両でむさぼる父、息子は食堂車でステーキとカクテルの食事をとる。折角の寝台列車で眠ろうとしない父、周囲はそんな愚直な父に同情し、薄情な息子に冷たい視線を投げる。義父と何故だか仲のよい妻のジョイス。彼女は合理的な女性であったはずなのに、妊娠後カトリックへの改宗を望む。カトリックはジョンが過去に捨ててきた教義でもある。白蟻に喰われて床を直すはずの父は、リビングの暖炉を全面的に倍もある大きなものに作り替える。妊婦でありながらそれを手伝う嫁。

もうすぐ生まれてくる子供のために、父と息子は、父の故郷の英傑の物語を完成させようとする。泥酔する父の支離滅裂な話をどうにか一晩かけてまとめ上げた息子が、翌朝父に原稿を見せると、父は読もうともせず、こう言い放つ。
「俺が読んでどうする?いいか、息子よ、俺はそれを生きたんだぞ」
本ばかり読む息子にあからさまに不満を表す父は、逃げようのない現実を生きてきた移民第一世代で、アメリカナイズされた第二世代の息子は、虚構の世界の中で生きている。

兎に角すべてにおいて分が悪いのは息子のジョンだ。途中彼は叫ぶのだな、僕は、父親になんてなりたくない。男にも夫にもなりたくない、6歳か7歳の子供に戻ってお母さんの腕で眠りたい、と。。。

教会という権威から逃れるため、無信仰を通していたジョンはしかし、信仰への郷愁を捨てられずにいる。妻が改宗したその日、ジョンは告解を拒んだために、神からの赦しを得ることができない。そのジョンにエマソンのエッセーの一部を読み上げ、司祭に代わってジョンの魂を許す妻。彼女の分娩を待つ間、病院の庭の小さな礼拝堂で、ミサで唱えられる文言を口にするジョン。念願の男の子が無事生まれ、半泣きの父とともに家に戻る息子。そして父は”母さんのところに帰る”と云う。
”お前はここにいろ。ここでお前の息子を育てるんだ。”
父親になりたくなかった息子は、父親になった。そしてその父も、息子が父親になったことを悟る。

ダラダラ書いて混乱してきた。やっぱり、心が痛くなるこの本は苦手だな。
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[C493]

この内容、「苦手だな」と言うのは的確な表現だなって思いました。
誰でも“ドラマ”は持っていて、他人と共感できるようでもあり、でもやっぱり違っていて。どれがいいとか悪いとかではないし。他人の人生ドラマを聞いても、やっぱり他人のドラマであって。分かるけど、分かりきれない。なんかなーって。
  • 2017-02-21 22:43
  • mAr
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  • 編集

[C496]

ネットで見ると面白かった!という意見が圧倒的で、それはとてもよくわかるのです。無骨なイタリア人のお父ちゃんは確かに愛すべきキャラクターだと思います。
でも、じゃあ自分の父親がこんな人だったら、少なくとも若いうちは絶対に反面教師にしかならないと思うんですよ。きっと誰でも反抗期ってものがあって、親と親の世代の疎ましさは経験するんですよね。国が違っても、その生々しさに直球で触れられると、痛いなあと。。。

私にとって読書は現実逃避なので(笑)。

  • 2017-02-24 14:45
  • Green
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Author:Green
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