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異形の愛

その道(?)では有名な作品らしい。私が読んだのは、今年河出で復刻されたバージョンで、元は今は亡きペヨトル工房という出版社から発売されたが、その出版社が営業停止し、絶版となり入手困難になったとか。。。帯にもこうある。 ”偏愛される伝説の名作”

4309207286異形の愛
キャサリン ダン Katherine Dunn
河出書房新社 2017-05-24

by G-Tools

下記のご紹介は、ペヨトル工房版からの引用。
人間存在の根源を問う、全米図書賞候補作。フリークス版『百年の孤独』。傾きかけたサーカスの団長が計画した「お金をかけずにサーカスを再建する方法」とは、妊娠中の妻にありとあらゆる毒薬を飲ませて、見世物用のフリークスを誕生させることだった。親に望まれて生まれたフリークス同士の切なくも哀しい「異形の愛」は、信者自らが手足を切り落とすという破壊的な身体損傷カルトを生み出してしまう。からだの異形とこころの異形、ふたつの異形が交差する愛と憎悪の行きつく先は…。

ゲテモノの見世物”ギーク”を売り物にアメリカ中を巡業して回るビネウスキ一家の物語。母は妊娠中にありとあらゆる毒物を摂取し、揚句に放射能(だったかラジウム光線だったか)まで浴び、一家で自らフリークスを誕生させようとしている。そして結果生まれた長男アーティは両手足のない“アザラシ少年”、エリーとイフィーの姉妹はシャム双子、語り手のオリーはせむしでアルビノ、弟のチックは見た目はノーマルだがテレキネシス能力を持ち、念力で物体移動させることができる。フリークショーというのは、アメリカなんかではあるそうだが、身体的な奇形とそれゆえに持つ能力やパーフォーマンスを、普通ではないユニークな存在として崇め奉る一家を主軸にそえると、実はそれが普通になってくる。そういうことなのだと気づくけば、そこにあるのはある一つの家族だ。

エログロかと云われると難しいところだが、ある種のグロはあるが、エロはあまり感じられない。そのグロだが、「城の中のイギリス人 」に比べたら、何のことはない。フリークスを身体の歪みととらえるなら、歪んでいるのは身体ではなく、むしろ精神の方だ。ビネウスキ一家の世界は、私が通常いる世界とは価値観が真逆だ。服の違い以外に違いがわからぬような普通の人間には価値がなく、どれだけユニークであるかが最も大切。だから、ママが生んだ赤ん坊の中には、普通のフリークスだからと命を絶たれた赤ん坊がいる。そして、その子らは”あなたたちの兄弟よ”と云われ、ホルマリン漬のまま一家とともに住んでいる。語り手のオリーは、ただのアルビノで背中にコブのある小人で、そんな普通のフリークスであることに、劣等感を感じている。

最後になってわかることだが、この話しは、語り手オリーが自分の娘へ残した遺書だ。現在と過去が混じる構成だが、この娘の出生の秘密と、なぜ母であることを隠して、それでも娘に近づき見守っているかという謎への答えが、悲劇のビネウスキ一家の物語の最期を飾るものだ。途中まではちょっと変わってはいても子供を愛するママとパパと子供たちの話しだが、長男のアーティーが暴走を始めてから、物語は一気にグロテスクさを増していく。信奉者に囲まれ、カルト教団の神のような存在になったアーティーには誰も逆らえず、手出しができない。盲目的に従う膨大なる信徒だちは、アーティーと同じ身体になるべく、手足を切り落とす。その手術をテントの中で繰り返し、テレキネシスを持つ末っ子のチックはその手術助手となる。自分に反抗するシャム双生児の双子を、植物人間にしてしまうアーティー、そんなアーティーに絶対服従のオリーとチック。そしてそんな歪んだ精神が、最後は一家を崩壊へと導く。

一家が崩壊した後辛うじて生き残ったのは、オリーと気が狂ってしまったママだけだった。そしてオリーの最期の盲信は、娘を傷つけようとしている女性を殺すこと。過激なフェミニストであるその女性は、女性らしさを敢えて破壊して男性に従属する生活から脱却すべきだと唱える。そして女性たちを支援し、金を出して自立させると云いながら、実は自分より美しい人を醜くする手術を施し、そしてその手術の映像を残し観て楽しむという歪んだ女性であることをオリーは発見する。娘を守るためこの女性殺害を企て、オリーは巻き込まれて死んでしまう。

それぞれのエピソードは確かに尋常ではない。オリーの娘の出生の秘密も吐き気を催すようなものだ。歪んでいるけれど、愛だと云われればそうなのかもしれない。一家崩壊後、オリーの世界は逆転し、ユニークなフリークであることで、世間から奇異の眼で見られる世界に生きることになる(つまりは、私たちの世界だが・・・)。物語の大半を占めるサーカス一家のエピソードより、最後にどうも心に引っかかるのは、所謂普通に見える人間が実は歪んだ精神の持ち主であったということ。歪んだ兄アーティーに盲目的な愛を注ぎ、そして自分の娘を守るため歪んだ普通人を抹殺する。どっちも愛なら、あまりにも痛すぎるだろう・・・

だからこれが一家の愛の物語だと云われれても、私はどうも素直にうん。。とは云えない。が、間違いなく面白かった一冊。
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コメント

[C534]

ひゃー😱なんだかスゴイ内容です。
身体的な奇形をショーにするというのは、アメリカでもそうなのか。インドや中国、東南アジアでもあるらしいけど、日本ってそれを見て楽しむ(? ショーということは、それを楽しむ人々がいるってことよね?)文化って無かったんじゃない?わかんないけど…

[C535]

この本のとっかかりとして、フリークスに対する興味を否定はできないですね。結果的にそうではないとわかっても・・・

日本にも見世物小屋文化はありますが、あまりこういった奇形を見せるというものは聞かないですよね。鳥獣ものやエロもの、お化けの類の見世物小屋はあったと思いますが。文化がない国にいると、わざわざ見に行く気持ちはよくわからんです・・
  • 2017-09-04 17:36
  • Green
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