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カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺

再びAll Reviewsにそそのかされて購入してしまった。
カチンの森という言葉を何となく記憶しているのは、きっとアンジェイ・ワイダ監督の「カティンの森」という映画の記憶だと思う(但し見ていない)。本を開く前に、さらっとネットで勉強してみたが、映画も含めこの事件に関しての記事は相当ヒットした。そして、俄かには信じ難い事件にちょっと絶句した。

4622075393カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺
ヴィクトル・ザスラフスキー 根岸 隆夫
みすず書房 2010-07-10

by G-Tools

長くて恐縮だが、下記が出版元、みすず書房の紹介
1939年8月の独ソ不可侵条約、それにもとづく両国の相次ぐポーランド侵攻、こうして第二次大戦ははじまった。
1940年春、ソ連西部、スモレンスク郊外のカチンの森で、ソ連秘密警察は約4,400人のポーランド人捕虜将校を銃殺した。犠牲者数は、同時期に他の収容所などで殺されたポーランド人と合わせて22,000人以上。職業軍人だけでなく、医師、大学教授、裁判官、新聞記者、司祭、小中学校教師など、国をリードする階層全体におよんだ。
しかしソ連は、犯人はドイツであると主張。さらに連合国もすべてソ連の隠蔽工作に加担し、冷戦下も沈黙を守りつづけた。ソ連が事実を認めたのは1990年、ゴルバチョフの時代。92年になるとスターリンの署名した銃殺命令書も閲覧可能になる。
スターリンが、ポーランドという国自体を地図から抹消しようとした理由は何か。なぜゴルバチョフは、もっとも重要な文書の公開に踏み切れなかったのか。著者は簡潔にバランスよく、独ソ不可侵条約とカチン虐殺の関係、欧米列強の対応と思惑、歴史家の責任、さらにはカチンに象徴されるソ連全体主義の根本的な問題と、ふたつの全体主義国家(ナチ・ドイツとソ連)の比較まで、最新資料を駆使しながら解析する。
日本では類書はきわめて少ないが、欧米では蓄積がある。本書はそのなかでも決定版として評価が高い。今後、20世紀ソ連の全体主義見直しのなかで、ますます重要度を増すことだろう。2008年、ハンナ・アーレント政治思想賞を受賞。


驚くことはあまりに多い。あまりに多くて、それだけで一杯で何故?について思考を巡らす余裕がないほどだ。
・無差別大量殺人 ユダヤ人の虐殺を「民族浄化」とするなら、カチン事件はポーランドの指導者階級虐殺という「階級浄化」
・戦勝国が揃いも揃って、ナチスドイツに罪をなすりつけようとした
・戦勝国の犯罪故、戦後のニュルンベルク裁判でもろくに審議されなかった
・21世紀を迎えるまで事件の真相が公に公開されなかった。あのグラスノスチ(情報公開)を断行したゴルバチョフでさえ、この件については、例外扱いだった。
等々・・・

一国のそれも超大国のトップに立つ人間の気持ちなどわからないが、それはもう普通の精神ではいられないのか?それとも不幸な時代の特異な状況が怪物のような人間を生み出すのだろうか?ヒトラーが生まれ、同時期スターリンが生まれたことは偶然ではないのか?もしくは、これは世界を舞台にしたジェノサイド故、ここまでの事件になるが、私たちの日常において、xxxさえなければとか、xxxさえいなければ、と願ってしまうことと、同じことなのか?今の時代であっても、独裁者政権というものは、存在する。それは昔も今も変わらない。ネット全盛の現代において、こいつは叩いてもよいとなった瞬間のマスコミ挙げての過剰な叩き方は、イジメと呼んでもいい。その巨大化したものが、国際問題までに発展するジェノサイドなのか?それともそれらはやっぱり違うのか?私にはよくわからない。

ドイツとソ連による秘密条約、独ソ不可侵条約は、ポーランドという国を地上から抹殺し、指導者階級を抹殺することで、二度と立ち上がれないようにするソ連と、そのおこぼれを頂戴するふりをして、さらに東に侵攻するドイツとの身勝手この上ない条約であった。どうもスターリンはヒトラーをある種認めていたという記事もあったが、ヒトラーは端から条約を破るつもりだったとしか思えない。更にチャーチル、ルーズベルトら英米諸国も憎きドイツを潰すためなら、ポーランド一国が消滅しようが、スターリンと結ぶ方が得策だった。本によれば当時の状況証拠からして、ソ連の犯罪であったことはほぼ間違いなかったはずだが、チャーチルもルーズベルトも見て見ぬふりを決め込んだ。ソ連とドイツの犯罪の擦り付けあいに、これら二大超大国が少しの正義感を示したならば、カチンの森の真相は、もっと早くにわかっていたのだろうと思う。でも一旦ついたウソをウソだと認めることは、当人たちが生きている限り困難で、しがらみから解放された新しい世代が時代を担うようになるまでは、出来なったのかもしれない。

東西冷戦を見ながら成長した私なんかは、民主主義国家だの社会主義国家だのというイデオロギーの違いも見ていたわけだが、イデオロギー論争もxxxx主義も、茶番じゃない。

歴史は勝者によって造られたもの、という云われ方はよくされる。ヒトラーの罪は罪として、でも彼は叩いてもよい人物になった。何を暴露しようが構わなかった。でもソ連時代の闇はまだまだ明らかになっていないのだろう。ゴルバチョフは旧体質にメスを入れた画期的な指導者だったというイメージが先行しているが、実際のところ彼は”ソ連”の指導者の枠を出ることはできなかったし、国内の権力闘争を収めきれなかったし、ソ連邦解体までは臨んではいなかったろう。戦後70年を経た現在、70年たったら当時を知るものはほんの少しになり、事件も戦争も風化することが懸念されているが、70年経ってようやく認めることができる闇の歴史もある。70年という時間は、そういうことなんだろう。
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[C544] ひま潰しにブログ読んでます。

ラテンアメリカとドイツの海外小説が好きでこのブログを見つけました。
かなり早い段階からボラーニョ知っていたんですね。
早く夜のみだらな鳥が読みたいです。
  • 2017-10-27 13:22
  • たなか
  • URL
  • 編集

[C545]

コメントどうもありがとうございます。今後もどうぞひまを潰したいときにお立ち寄りください。

ボラーニョは邦訳第一号の「通話」でいきなりはまりました。まだそれしか邦訳がなかったので、英語版を探してみたら、アメリカでは既に注目を浴びていたらしく、かなり出版されていたので、それを読み始めました(最近はサボっています)

「夜のみだらな鳥」は私も首を長くして待っています。旧版はウン万円という値段になっていたので、とてもとても手が出ません。
  • 2017-10-27 14:15
  • Green
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