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ピンフォールドの試練

しつこく吉田健一。今回は彼が翻訳した英国の作家、Evelyn Waugh(1903-1966)。カトリックだそうだが、改宗したのが妻の不倫が原因で離婚した後という。一時何だか出版頻度が多い作家だと思っていたら、2016年が没後50にあたり、出版が相次いだそう。20世紀英国を代表する作家だというが、日本でももう少し取り上げられても良いのかもしれない。 

4560071969ピンフォールドの試練 (白水Uブックス)
イーヴリン ウォー 吉田 健一
白水社 2015-01-07

by G-Tools

中年の小説家ギルバート・ピンフォールドは倦怠に取りつかれ、酒や睡眠薬の飲み過ぎで記憶力も減退という状態がつづいていた。医師の勧めで転地療養をかねてセイロンへの船旅に出かけると、乗船早々、どこからともなく騒々しい音楽や牧師の説教、船内で何やら怪しげな事件が起きていることを示す会話などが聞こえてくる。声はやがて作家の悪口となり、さらには彼に対する悪意をむき出しにしたラジオ放送、ピンフォールド襲撃を計画する「愚連隊」一味など、船内のどこにいても、さまざまな声が彼を悩ませ始めた。手を替え品を替え、次々に仕掛けられる悪ふざけに途惑うピンフォールドだったが、その一方で、声の中には彼に熱烈な愛情を寄せる女性もいて……。幻の声、姿なき敵に翻弄される小説家の悪戦苦闘を皮肉なユーモアをまじえて描いた、ウォー晩年の傑作を吉田健一の名訳で。

1957年に刊行された作品というから、イーヴリン ウォー 晩年の作。中年小説家のピンフォールドはイーヴリン ウォー の分身として描かれているというが、イーヴリン ウォー の実生活も少々破綻気味だったようだ。自己との苦闘と読むこともできるし、20世紀半ばの社会風刺とも読める。一時代前の知識人・中産階級であるピンフォールドと戦後登場する世俗性との確執という面もある。舞台はほぼセイロンに向かう船の中で、そこに登場するのは、ピンフォールド氏のようなひと昔前の中産階級もいるし、ユダヤ人、労働者である非白人もいる。そこには明らかに差別意識が覗いている。

ブラックユーモアと云われてしまえばそれまでだし、ピンフォールドの薬物中毒症状による誇大妄想、一人相撲とすれば笑っていいのかもしれないが、私は正直あまり心地よく笑えてはいない。やや辛い思いで読み進めたくち。そもそもピンフォールド氏の自意識過剰ぶりが笑えないし(多分身近にいたらちょっとイヤな奴)、度を超えた悪ふざけも笑えない。ただイーヴリン ウォー が上手いなあと思うのは、その自意識過剰と悪ふざけを延々と描いていながら、陳腐にならず飽きさせもせず、そして意外にもあっけないエンディングを用意しておきながら、あとから思うと、そのエンディングこそがちょっと怖いってところか。。。結果から云えば、ピンフォールド氏は「試練」を乗り越えて、愚連隊連中をやっつけるわけだが、心身の回復を果たし、自分の書斎に戻った彼は、書きかけの原稿を前に仕事を始める。

今はもっと緊急を要する仕事があって、自分が経験したばかりの豊かな 材料は、ほうっておけば駄目になる心配があった。 彼は原稿の束を引き出しにもどし、新しい大判用紙を一帖、自分の前に 拡げて、彼のいつものしっかりした筆跡でそこに、
    ピンフォールドの試練
    1 中年の芸術家の肖像 
と書いた。

ダメじゃん・・・これはむしろ出口のない負の連鎖ではないのか?で、最後にこの自意識過剰な中年作家が結構したたかな人物であったということを思いだした。
ピンフォールド氏の趣味の中でいちばんはっきりしているのは消極的な性質のものばかりで、彼はプラスチックや、ピカソや、ジャズや、その他どういうものであっても、彼自身の生涯に現れたものはすべて大嫌いだった。
ピカソとジャズが並ぶのはよいが、そこにプラスチックも入るのか・・・ ピンフォールド氏は「試練」を乗り越えて、愚連隊連中をやっつけた、のではなく、相手が根負けしたんだ。

ということで、初イーヴリン ウォー はどう解釈してよいのやらわからかったので、『ブライヅヘッドふたたび』を勿論、吉田健一訳で読んでみようと思いっている。
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