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父のこと

巷の噂では、吉田健一氏は父の吉田茂と折り合いが悪かったという。どうだろうな?この本を読む限りでは、そうとは思えない。後半は大磯の吉田邸で記者付とはいえ、二人で対談している会話が収録されている。決して一般的とは云えない親子だから故の噂だと思える。私はさすがに吉田茂は歴史教科書の人で実感はないが、大磯の吉田邸は身近に感じている。2009年に火事で全焼したが、その後再建された。

4122064538父のこと (中公文庫)
吉田 健一
中央公論新社 2017-09-22

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前半は父吉田茂に関するエッセイ。これはまあ、通常の吉田健一だ。後半の対談は笑い通し。元首相故政治問題を抜きには済まされないのだが、野次馬的に期待してしまう裏話より、もっともっと面白い。吉田茂は良くも悪くも、好きも嫌いも抜きにして、豪放磊落でありながら、繊細、そして抜群のユーモアセンス。外交官出身の吉田茂故、外国文化や言葉、そもそも慣れというものがあるにせよ、決してそれだけではない。自らに自信があるということは自分の弱さや欠点もわかり認めているからで、ワンマンと云われても、筋の通った反骨精神があったからこそ、憎まれっ子は世に憚ったのだと思う。

「餓死者が出るから食糧輸入を」とマッカーサーに450万トンの食糧輸入を依頼して、70万トンしか輸入できなかったが、餓死者はでなかった。マッカーサーはこの日本のいい加減な統計に文句をいったが、吉田茂曰く、「もし日本の統計が正確だったら、むちゃな戦争などいたしません。また統計どおりだったら、日本の勝ち戦だったはずです。」 マッカーサーは大笑いしたという。吉田の切り替えしも見事だが、大笑いしてくれたマッカーサーも立派だ。二人の信頼関係が築かれていくきっかけになった出来事なのかと想像する。

吉田健一は父と向き合うとちょっとかわいい。勝ち負けではないのだが、老獪(それは失礼か・・・)な父の方がさすがに上手だ。ちなみに健一氏は父を”パパ”と呼ぶ。対談は戦後10年を超え、吉田茂が政界を引退した頃。戦時中は完全の干されていた吉田茂。戦後の復帰もある意味ではハズレくじなのかもしれないが、海外駐在で一緒に暮らしていない時期も含め、健一氏はずっと父をしっかり見ていたのだろう。簡単に尊敬という言葉でかたずけてしまうのもなんだが、父の筋の通し方を彼はずっと信奉してきたのだと思った。政治家と文士、畑も違うが、きっと性格も異なるのだろうが、見事だと思うのは、吉田茂の息子の突き放し加減と、健一氏が父との間にとる微妙で絶妙な距離感だ。正直羨ましくもある。

巻末には健一氏の娘、暁子さんのエッセイ。実はこれが一番じんわりときたのだな。ここにも父と娘の程よく絶妙な距離感がある。まあ、娘だったから可愛かったには違いないのだろうが、父から人としてきちんと認めてもらえた健一氏は、娘も一人の人間としてきちんと認めていたのだろう。簡単なことではなかろうに・・・ ということで、いきなり暁子さんのファンになってしまった私は、『父 吉田健一』 という彼女の本をポチってしまった。
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[C587]

この太字の部分、吉田茂氏の言葉、マッカーサーも返す言葉もないですね。茂氏の側近だった白洲次郎氏といいこの時代の日本人は粋ですよね。いまの政治家の言葉はどうなってしまったのでしょうね。。。
この本と「三文紳士」も読んでみたくなりました。父の書棚を探してみよっ。
  • 2018-06-26 21:45
  • mAr
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[C589]

父の本棚から本を選ぶことができるって(安上がりとかそういうことではなく)、とてもいいですね。まあ、売上には貢献しないのですが、本が読み継がれていくってところ、とても好きです。

吉田健一と白洲次郎は、面識くらいあったかもしれないですが、吉田茂が戦後奮闘していたころ、息子健一はあまり父とは接点がなかったというようなことを云っているので、興味ある組み合わせなんですが、当人たちにはどこ吹く風かもしれないですね。今ではなかなかお目にかかれないカッコイイ大人ですが。。。

  • 2018-06-27 13:35
  • Green
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