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プラハの墓地

エーコがなくなってもう2年以上がたつ。「ヌメロ・ゼロ」に続いて、こちらもようやく入手した。

4488010512プラハの墓地 (海外文学セレクション)
ウンベルト・エーコ 橋本 勝雄
東京創元社 2016-02-21

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知の巨人、ウンベルト・エーコ待望の最新刊。ナチスのホロコーストを招いたと言われている、現在では「偽書」とされる『シオン賢者の議定書』。この文書をめぐる、文書偽造家にして稀代の美食家シモーネ・シモニーニの回想録の形をとった本作は、彼以外の登場人物のはほとんどが実在の人物という、19世紀ヨーロッパを舞台に繰り広げられる見事な悪漢小説(ピカレスクロマン)。祖父ゆずりのシモニーニの“ユダヤ人嫌い"が、彼自身の偽書作りの技によって具現化され、世界の歴史をつくりあげてゆく、そのおぞましいほど緊迫感溢れる物語は、現代の差別、レイシズムの発現の構造を映し出す鏡とも言えよう。

時代は19世紀末。この「シオンの議定書」のことを知らないまま読むのもどうかと思い、ネットをみていたが、有名なものほど情報がありすぎてよくわからない、というありがちな結果になった。とはいえ、ぼ~~とながらこの有名な偽書の存在を頭にいれつつ読んでみる。この時代のヨーロッパ史にこれまた疎いというのも悲しいことだが、イタリア統一、パリ・コミューン、ドレフュス事件というヨーロッパを揺るがすような大事件と、その裏で暗躍する組織(フリーメイソン、イエズス会、各国秘密情報組織、ユダヤ人)、てんこ盛り度でいくと、閉じられた場所で展開される殺人の推理劇「薔薇の名前」の方がわかり易いくらいだな。云われてみれば至極当然なのかもしれないが、人は純粋に主義主張でグループを作っているうちはまだいい。フリーメイソンとイエズス会とユダヤ人はきれいな3つの輪に分かれているわけではなく、すべては重なり合っている。エーコ先生の本は、蘊蓄語りにはたまらないのだろう、ネットでググると記事がギョーサンでてくる。ので、細かい話しをそちらを読む方はが賢明と思われる。

偽書「シオン賢者の議定書」をめぐるエピソードはクライマックスだが、この本、どこをとっても胡散臭い人間と悪人と金の亡者しか出てこない。善人がいない。偏見と憎悪の塊ばかりで心優しい人はそれだけで吐き気がするかもしれないが、私はそれほどぞ~~とした気分にはならなかった。吐き気がするほどの偏見と憎悪は実は驚くに値しないからだろうか?実はそれは、いつの時代でも、今の時代でも変わらないからだろうか?偏見と憎悪はデフォルメされているとはいえ、遠慮もなくともすると滑稽でさえある。主人公シモニーニは祖父からユダヤ人嫌いを刷り込まれた人物だが、誰にせよ個人的恨みとか具体的な何かをきっかけにユダヤ人嫌いになったというより、そこには明確な根拠なんてなく、当たり前のようにユダヤ人を憎んでいるようにさえ見える。 そして扇動的な言葉に踊ろされる人々がその憎悪を増幅していく。愚かと云えば愚かだが、今も昔も人々はそうやって戦争をし、策略を巡らし、不毛の陣地取り合戦を繰り返してきた。

偽書や入り組んだ策略に加えて更に話しを面白く(そして複雑に)しているのは、主人公シモニーニの二重人格という設定。古物商のふりをして、偽造屋兼スパイのように活動する彼は、記憶が途切れることがある。その途切れた期間に登場するのが、イエズス会士のピッコラである。二人が、いや2つの人格がそれぞれ紡ぐ手記がこの本の前提にある。シモニーニが綴る手記、その記憶が途切れた時は、ピッコラが登場し、手記を綴る。それは二人の人間が間接的に会話をしている状態だ。それぞれの人格が起こす殺人事件と死体遺棄、立場は違えど、両人に共通するのはユダ人に対する嫌悪。ユダヤに対する罵詈雑言は耐えられた私が、何が一番ぞっとしたかというと、物語の終盤で、修道士ピッコラが薬物のためとはいえ、悪魔の儀式の中でディアナと 性交を持ってしまうのだが、後になって意識が正常になったとき、ピッコラが彼女の中にユダヤの血が流れていることを知ると、逆上して彼女を殺害してしまう。自らがユダヤの血を引き継ぐ子孫を残すなど絶対に許せなかったのである。その嫌悪感からくる怒りが途轍もなく怖かった。曲がりなりにも彼は聖職者だというのに・・・

国家という実は曖昧な集団をまとめ、自分たちのアイデンティティーを意識させるためには共通の敵をつくる。民主主義を利用することで(無知な国民を扇動すれば)独裁制を作り上げることができる。人は信じたいことだけを信じる、それが嘘であろうが、信じたければ信じ、真実であっても信じたくないことは信じない。そして愛より憎しみの方が長続きする。そんな人間の悲しくも愚かな性を利用して偏見と憎しみが助長され、独裁体制は出来上がっていく。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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