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黄泥街

中国の本をもっと読んでみようかと思わせてくれた作家、残雪(なんと発音するのかいまだ知らず・・・)。中国作家は三人目だと思うが、イデオロギーやら政治的な側面から中国に偏見を持とうものなら勿体無い。「愉楽」の閻連科といい、莫言 といい、ぶっ飛び具合は、他国の追随を許さないほどのぶっとび。

黄泥街 (白水Uブックス)
残雪
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黄泥街は狭く長い一本の通りだ。両側には様々な格好の小さな家がひしめき、黄ばんだ灰色の空からはいつも真っ黒な灰が降っている。灰と泥に覆われた街には人々が捨てたゴミの山がそこらじゅうにあり、店の果物は腐り、動物はやたらに気が狂う。この汚物に塗れ、時間の止まったような混沌の街で、ある男が夢の中で発した「王子光」という言葉が、すべての始まりだった。その正体をめぐって議論百出、様々な噂が流れるなか、ついに「王子光」がやって来ると、街は大雨と洪水に襲われ、奇怪な出来事が頻発する。あらゆるものが腐り、溶解し、崩れていく世界の滅びの物語を、言葉の奔流のような圧倒的な文体で語った、現代中国文学を代表する作家、残雪(ツァンシュエ)の第一長篇にして世界文学の最前線。

おそらく背景にあるのは文化大革命なのだろう。はじめは「現実主義」の手法で書いていたが、途中で限界を感じ、現在見られるような形に改めた、とあとがきにあるが、その現実主義の手法を捨てて描いたこの奇想天外さは、もはやみんなわからない。わからないけれど強烈な凄みだけで読ませてくれる。黄泥街というかつてあったらしい灰と泥と汚物のまみれた街とそこに住む人々は全く現実的ではないくせに、確固として存在しているのだと思わせる。

人々はとにかく喋る。のべつまくなしに喋る。3日も4日もぶっ続けに喋る。が、会話の形式をとっていながら、それは会話ではなく、コミュニケーションとしての言葉ではない。誰も本当のことはなにもわからず、デマと噂と、受け売りを誰もがまくし立てる。喋るほどに黄泥街は混沌とし、腐敗が加速し、すべては溶け出し、崩壊へ向かって進んでいく。

残雪の父親は文化大革命により迫害を受け、彼女は父が収監された監獄近くの小屋で一人暮らしを強いられたという。1年を費やしたというこの処女作「黄泥街」の根幹にはその事実があるとは思うのだが、微かにでも反体制的な匂いがあるのではと期待して、探して読み続けても、そこにあったのは、蛆虫やムカデや糞尿の臭いばかりだった。徹頭徹尾、残雪はわからなさを貫いている。文学というものが言葉であるなら、それがわからないことから始まるのが残雪の世界なのだろう。

あとがきとは別に訳者近藤直子氏の「わからないこと」と題する短い論文がある。締めくくりはこれがいい。
すべての始まりであると同時にすべての終わりでもあり、すべての終わりであると同時にすべての始まりでもある場所。他者と一体であることのおぞましさが快楽に変わり、その快楽がおぞましさに変わる場所。わかろうとする狂気がわからないことへの絶望に変わり、わからないことへの絶望がわかろうとする狂気に変わる場所。語りえぬことを、語りえぬがゆえに語ろうとする「気ちがいのたわごと」が、文学が、そこからはじまるのだとすれば、残雪の文学はすでにはじまっている
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