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吉田健一ふたたび

1977年に没した吉田健一。没後40年以上を経て、新たな吉田健一論が出た。
評論の類は苦手だ。何だか小難しいし、作品の裏側をあーだこーだと解説されると興醒めだし、時には画一的な見方を強要されている気にもなってしまう。読み方のお手本は本来不要。でも、例外の作家もいる。その中の一人が吉田健一。どうにもあのチャーミングさが好きなのである。

吉田健一ふたたび
吉田健一ふたたび
posted with amazlet at 19.09.06
川本 直 樫原 辰郎 宮崎 智之 白石 純太郎 渡邊 利道 渡邉 大輔 仙田 学 武田 将明 富士川 義之 柴崎 友香 興梠 旦
冨山房インターナショナル (2019-02-21)


目次をのせておこう。
はじめに 川本直
Ⅰ 対談 
川本直・樫原辰郎「健坊、文士になる――吉田健一の生涯」
Ⅱ 批評1(随筆) 
宮崎智之「吉田健一の執着と自己表現の地平」
白石純太郎「交遊する精神の軌跡」
Ⅲ エッセイ1 
宮崎智之「「或る田舎町の魅力」に導かれて――吉田健一が愛した児玉という町」
Ⅳ 批評2(批評)
渡邊利道「孤独な場所で――吉田健一と日本文学」
渡邉大輔「『時間』の窪地に」
Ⅴ エッセイ2 
川本直「吉田健一邸を訪ねて」
Ⅵ 批評3(小説・翻訳)
樫原辰郎「吉田健一の長編小説に就て」
仙田学「こういう積み重ねがなくて人間はどこにもいることにならない」
川本直「楽園からの逃亡」
Ⅶ 講演「吉田健一と文学の未来」
武田将明「イントロダクション」
富士川義之「吉田健一という生き方」
柴崎友香「吉田健一と東京、小説の中の場所」
武田将明「吉田健一と「英国」の文学」
Ⅷブックガイド
川本直、樫原達郎、仙田学、渡邉大輔、武田将明、宮崎智之、渡邊利道、白石純太郎、興梠旦
おわりに 樫原辰郎


下世話な話だが、吉田健一の生涯、特にケンブリッジ大学を1年も経たずに退学し日本に戻ったわけは、私にとってやはり疑問だが、この本によれば、ケンブリッジ時代に師事したディッキンソンに
「外国語で書くということは、到底できないことだ。コンラッドの文章でも、間違いだらけだ」
といわれたことが原因だったという。私が想像したいた以上に、彼の英語力は凄かったらしい。それは日本人として英語が使えるという意味以上に、ケンブリッジ時代までなら、日本語が怪しかったというレベルであったらしい。もちろん話せないわけではないが、そこまでの人生で彼が接してきた文学は、日本語のフィルターを通していない原文ばかりであったのかもしれない。であれば、文学をやろうと思ったその時に、日本語という選択肢は考えていなかったのかもしれない。そうであったとしたら、その英語を外国語だと云われたことになるし、彼自身もそう納得したということになる。 ただ、ケンブリッジに入学した時には、文士になる予定はなかった、英語教師にでもなろうと思っていた。が、帰国するときは、文士になってやろうと考えて帰国した。そうなのか?・・・・。

帰国後、川上徹太郎に師事するが、”健坊”と呼ばれていたこの頃、仲間内では”ヤツの日本語は変”で、立ち振る舞いもナヨナヨして、帰国子女だった彼はいつも洋装で、川上徹太郎に云われて通ったアテネフランスでフランス語を瞬く間に学び、続いてギリシャ語もラテン語もすぐに学んで、卒業してしまった。川上曰く、”酒しか教えることがなくなってしまった”。とはいえ、当時不良の集まりも同様だった文士たちの中で、知性と教養だけはダントツなくせに、ナヨナヨした変な日本語を話す吉田は小林秀雄たちにとっては、いじめるにはいい鴨で、でも決して文士としてものなるような人物とは思われていなかった。

ここから彼がどれだけ勉強したのかはわからないが、相当なものだったという。そしてそれだけ詰め込んだ知識と教養が自分の中で消化できない時代が長く続く。喰う必要もあったのだろうが、そんな時代のことはエッセイで面白可笑しく書いている。法螺半分だが、半分くらいは本当なんだろう。自分のスタイルを探し、名声や評判には無頓着で、政治的イデオロギーにもかぶれず、ブームになってきた翻訳で喰いつなぎ、単書が出たのが37歳の時。そして、45歳のときに出した「シェイクスピア」の評論で初めて文学賞を受賞。時代を考えれば、相当な遅咲きと云われる所以だ。この辺りからおそらく、知名度もあがり、美味いものを喰って酒を飲んで、旅をするという、あの吉田健一が現れてくる。”余生の文学”と本人は云ったそうだが、この後、65歳で没するまでは実に充実した作品を発表している。

もうひとつ下世話ネタを書くと、この本には写真が何枚か掲載されており、吉田邸の概観と、書斎の写真、そして手酌で酒を飲む吉田に、晩年銀座で買い物をする姿を見ることができる。残念なことに吉田邸は取り壊されたそうだ。エッセイの中で家を建てるときの可笑しな話があるが、どうしてどうしてレンガと木立に囲まれた古いのだろうが、素敵な家に見える。娘の暁子さんは、吉田の書斎を生前のまま残しておいたそうで、吸殻までもそのままにしておいたらしい。青いGauloisesのタバコも残っている。ちなみに書斎は和風で、机は文机に座布団だ。吉田健一の長男は早くに亡くなり、娘の暁子さんも体調がよくないとのことで、家は処分せざるをえなかったらしい。仕方ないのだろうな。でも泣きそうになる。家がのこっていようが処分されようが、私には関係のないことなのだが・・・

この本は吉田健一の後の世代が、没後40年が経った今でも古びない彼の作品、というより文士としての生き方や姿勢を書き連ねてくれていて、もちろん代表作への論評がメインだ。でも私はミーハー的に好きなので、生涯だの家だのを読んでウルウルしてしまった。まだ吉田健一を読んだことがない人が読むといいな、から始まり、やっぱりある程度読んでからじゃないと楽しめないな、に変わり、最後はやっぱり本人が書いた作品を読むのが一番楽しいな、で終わった。巻末には「ブックガイド」として、彼の書いた本のリストのみならず、その内容も付してくれている親切さ。このブックガイドは今後何度も見直すと思う。
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